【解説】イスラエル&パレスチナ戦争を理解するために ~ガザ地区が消滅する!?~

確かにイスラエルには自衛する権利があるかもしれないが、
とはいえ他者を抑圧する権利を持っているわけではない

虐殺テロ、そして難民

1947年の国連分割案採択から翌年の1948年12月までの約1年間、この時期がその後のイスラエルによるパレスチナ人虐殺テロの方向性を決定的にした。
パレスチナ人に対する強制追放、虐殺、レイプといった民族浄化である。
この点については当時のイスラエル軍関係者の証言からも明らかになっている。
象徴となるのは、エルサレムのデイル・ヤーシーン村の虐殺事件である。
テルアビブからエルサレムに向う、道路沿いにあるアラブ人の村──この地を支配するための作戦は「ナハション作戦」と呼ばれた。
この作戦で村民の約240人が殺され、生き残ったものは血だらけの服装のままエルサレムで「勝利の行進」を強制された。

ユダヤ正規軍突撃隊・元部隊長 メイール・パイールの証言
『正規軍の突撃部隊は北方から侵入し、わずか15分か20分で村を占領した。
部下と一緒にある家に入ると、3人の子供が部屋の隅で撃たれて死んでいた。
女も男も関係なく撃たれ、家という家で銃声が響いていた。
多くのアラブ人は逃げていたが、我々は見つけたものは誰であれ撃った。
私はその日が金曜日だと記憶している。捜索と射殺は休みなく続いていた』

ユダヤ人歴史研究者 テオドール・カッツの証言
『私は44人のユダヤ人元兵士にインタビューするまで、虐殺を信じられなかった。
遺体を埋めるのを手伝ったユダヤ人の話では、230まで数えたところでそれ以上遺体を数えるのを止めてしまった。
殺された人の数は今に至るまで不明だ。
一人ひとりの死は重要な意味を持つが、何人が死んだのか、その数自体は今は重要ではない。
重要なのは1848年にイスラエルによる大虐殺があったということだ。』

当時のイスラエル軍関係者の証言では、デイル・ヤーシーン村で起こった虐殺による「パニック」で、難民が発生するようになったとみてほぼ間違いない。
報復として、パレスチナ人グループによるユダヤ人の殺害事件が発生したが、再報復を恐れる他村の村民にまでパニックが波及し、離村を促す結果となってしまった。

心理戦、そしてパニック

同様のことは約75年を経た今でも、日々繰り返されている。
縦が約46km、横は6~10kmに約200万人もの人々が閉じ込められているガザ地区は、世界最高の人口密度とも言われている。
そんなガザに空爆を仕掛ければ多数の死傷者が出るのも当然だ。

そのような中、10月初めに起きた出来事は、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻と同様の衝撃を世界に与えた。
10月7日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、2500発ものロケット弾をイスラエルに撃ち込むことに端を発する奇襲作戦を発動した。
イスラエル軍もただちに空爆するなどで応戦したが、イスラエルの諜報機関も見逃していたハマスの動向は、2001年の売国同時多発テロになぞらえ「イスラエルの9・11」と言われるほど、イスラエルが受けたショックは計り知れない。
イスラエル側の死者数は、10月12日現在、1300人超。
一方、パレスチナ・ガザ地区ではイスラエルの空爆により1500人以上が死亡した。

死者数を単純比較すると両者の戦力は拮抗しているように見えるが、それはとんでもない間違いだ。
イスラエルの2023年の軍事費は234億ドル(約2兆7,000億円)で世界で15位の規模である。
ところが、対GDP比で言えば4.98%に相当し、GDP比のランキングに換算すると世界10位に躍り出る。
軍事費の対GDP比の世界平均が2.2%であることから、いかにイスラエルが軍事力の強化に力を注いでいるかが分かる。
これにはアメリカからの軍事援助も無視できない。
しかも、イスラエルは「核」まで保有していることは、今では誰もが知る事実である(核保有についてイスラエルは肯定も否定もしないが──)

このような軍事力を保有するイスラエルが、ひとたび ”本気” を出せば数日でガザ地区を完全制圧することも可能だろう。
しかし、これまでイスラエルはそうしてこなかった。
それは人道的観点からではない。

これまでもイスラエルがガザ地区の人口密集地を1ヶ月に渡り攻撃したことがあった。
それでも死者は1000人規模に留まったいた、という事実がある。
極論を言えば、イスラエルの軍事力からしてみれば1000人は一晩で容易に殺すことができる数である。
もしかしたら数時間であっても、それは十分に可能かもしれない(そのことは今回の戦闘で証明された)

アメリカの最新戦闘機やアパッチ・ヘリコプターが日常的に現れ、おびただしい銃弾が打ち込まれていたガザ地区ではあったが、攻撃に用いられる物量に比較して死傷者数が少ないというのもまた事実なのである。
あえて目標を定めず、微妙にずらしているとも受け取れる攻撃をこれまでイスラエルは展開していたと見るべきだろう。

これはイスラエルが展開する一つの「心理戦」なのである。

一度に数万人規模の殺戮を行い、パレスチナ人が生きる望みを完全に絶たれ自暴自棄なテロが頻発したのでは、さすがにイスラエルにとってもまずいことである。
同様の意味で、イスラエルに抵抗するハマスに対し幹部クラスの人間を積極的に殺したとしても、最高指導者まで殺してしまうということは絶対にしない。
優秀な諜報機関を有するイスラエルにしてみれば、ハマスの最高指導者がどこに潜伏しているか「お見通し」であるのにも関わらずだ。
 
ハマス内部には過激派も穏健派も存在する。
その両者を束ねる指導者まで殺してしまうと、さすがに過激派をコントロールできなくなり、過激派をある程度押さえるよう交渉するためにも指導者は殺さないのがイスラエルの政治的な戦略でもある。
これまでもイスラエルは、パレスチナの頂点の人間を殺すことはしなかった。
敵対する指導者を無くすことは、テロの嵐が吹き荒れることをイスラエルは熟知している。

日々少しづつしか殺さなくとも、それにより「パニック」に陥ったパレスチナ人の精神を破壊することは十分に可能であるとイスラエルは踏んでいる。
しかも、国際世論の非難を最小限に押さえ、効率的に事は進められる。

ガザが消滅する!?

これまでのイスラエルは、死傷者を「ある意味最小限に抑えること」により、別の利益をも得ようとしてきた。
イスラエルに痛めつけられたパレスチナは、たとえ停戦が発効したとしても様々な制裁といった、これまで占領されてきたことの本質は何も変わることがない。
一方のイスラエルは制裁すら受けることもなく、一方的な停戦はむしろイスラエル側が撤退してやったのだという印象を国際社会に植えつけることもできる。

そのようなイスラエルの「心理戦」を瓦解させたのが、10月7日のハマスによる奇襲攻撃だ。
イスラエルとパレスチナの戦いは、新たな局面に投入したと見るべきだ。
今回イスラエルは、ガザ地区を殲滅し完全制圧するつもりのように見える。
それはつまり、地図上から「ガザ地区」が消滅し、イスラエル国家に併呑されることを意味している。
このような暴挙を、世界は許すというのだろうか?

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