なぜ中曽根元首相の合同葬に税金が使われ弔意が強制されるのか?

国内政治
中曽根康弘と自民党の面々
Introduction:そもそも、国家とは「金」「権力」を行使したがるものです。
10月17日に中曽根元首相の合同葬儀が行われますが、ここでは「9643万円」に上る税金が使われ、さらに政府は全国の国立大学に向け、弔意を求める通知を出していることも分かりました。
コロナ禍が冷めやらぬこのご時世、政府の行うことは実に強権的、かつ ”浮世離れ” していると言わざるを得ませんが、これなども「金」と「権力」の行使の一つの形態と言えましょう。
発足してわずか1ヶ月というのに、菅政権は国民が納得できない政策に満ち溢れています。

中曽根康弘「大勲位の遺言」に背く自民党の政治家諸君

中曽根康弘・元首相は2019年11月29日、老衰のため東京都内の病院で亡くなりました。享年101歳。ちなみに、親族による葬儀は同年12月3日、東京都内で行われています。

◆ 出典記事 ◆
 『中曽根元首相の告別式 家族らが最後の別れ』

 ~2019.12.03 日テレNEWS24~

今回、2020年10月17日に『グランドプリンスホテル新高輪国際館パミール』で行われる中曽根元首相の合同葬儀については、今年の3月開催が予定されていましたが、コロナ禍の影響により延期されたものです。

そして、この「合同葬」とは菅内閣と自民党との合同主催であり、費用面においても内閣と自民党との折半であるということです。内閣が支出する費用は今年の通常国会で可決された悪名高い「予備費10兆円」からの支出、つまり、我々の税金から支払われます。──その額「9643万円」

これを高いとみるか安いとみるかは人それぞれでしょうが、コロナ禍のご時世、これに納得する国民は少数派ではないでしょうか?

このことについて、内閣や自民党の関係者はどのようなコメントを寄せているのでしょう?

加藤官房長官のコメント

加藤勝信官房長官は28日午前の記者会見で、昨年11月に死去した中曽根康弘元首相の「内閣・自民党合同葬」に政府が約9643万円を支出することにインターネット上などで批判が出ている点について問われ、「元総理の功績、過去の先例などを総合的に勘案して執り行うことにした」と述べた。その上で、経費について「葬儀は簡素なものとしつつ、コロナ対策に万全を期す必要がある。必要最小限の経費だ」と語った。

2020年9月28日 朝日新聞 『中曽根元首相の合同葬「必要最小限の経費」加藤官房長官』
※太文字は筆者による

二階自民党幹事長のコメント

二階俊博幹事長は記者会見で中曽根氏について「長きにわたりご活躍いただいた。日本国、党としてできる精いっぱいのことをしてお見送りするのが当然だ」と指摘。佐藤勉総務会長も会見で「功績は非常に大きかった。内閣としてもそのことを評価したうえでの判断だと思う」と述べた。

2020年9月29日 毎日新聞『中曽根元首相の合同葬に経費9600万円 二階氏ら自民幹部から理解求める発言』
※太文字は筆者による

両者とも当然ながら中曽根元首相に対しては好意的な姿勢で今回の合同葬儀に臨むようですが、当の中曽根氏の考えは彼らとは一線を画するかもしれません。というのも、中曽根氏は生前97歳の時、『大勲位の遺言』と題する手記を文藝春秋2015年9月号に書き記しているからです。

時代の果たすべき役割と責任を互いが共有し、いかなる政権下においても歳出の無駄を排除し、より効果的で効率的な予算の編成と執行を可能とする、政府はそのための明確な目標と工程表、そして方策を具体化しなければならない。

2019年11月29日 文藝春秋digital『中曽根康弘の遺言「歴史認識、憲法改正……言い残しておきたいこと」【特別公開】』
※太文字は筆者による

中曽根氏が「言い残しておきたいこと」として、せっかく生前手記をしたためていたのに、肝心の自民党の政治家諸君はまったくそれを読んでいないのか、あるいは読んでいても無視しているのかは定かではありませんが、少なくとも中曽根氏本人は草葉の陰で泣いているかもしれません。

合同葬に予備費を使うのは違憲である!

合同葬の費用は、今年決定された「予備費10兆円」から支出することになっていますが、そもそもこの「予備費」は「新型コロナに対応するため」に10兆円もの法外な予算が組まれたといった経緯があります。

当然、野党からは大きな反対の声が上がりました。
予算額が大きすぎて使い途が恣意的になるのではないか、つまり、いい加減な使い方をされるのではないかと懸念したわけですが、まさかその不安がこうも早い段階で的中するとは野党の面々も予想していなかったでしょう。

ちなみに、予備費については日本国憲法で明確に規定されています。

日本国憲法 第87条
①予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。

②すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。

条文から見ても明らかのように、予備費を充当するには「予見し難い予算の不足に充てるため」といった前提条件があります。しかしながら、今回の合同葬は「予見し難い予算の不足」ではありません。

そして、これは今に始まったことではないのですが、またもや政府与党は憲法違反をして恥じ入ることがないのです。野党は今年10月に予定されている臨時国会において、憲法87条の②に従い国会での事後承認を拒否する姿勢を、最低限見せる必要があります。

弔意の要望も教育基本法に反している!

また、菅内閣は文部科学省を通じ、全国の国立大学(実は私立大学も該当しているらしい──)に弔意表明を求める通知を出していることも分かっています。

教育基本法では第14で「特定政党を支持するなどの政治教育を禁止」しており、今回の要望は違法である可能性が極めて高いと言えます。加藤官房長官は「公の機関として広く哀悼の意を表するよう協力を求める趣旨で、強制を伴うものではない」と釈明していますが、強制を伴わないのであればわざわざ通知を出す必要などないのです。

それを今回わざわざ通知を出すということは、明らかに大学側に弔意表明を「強制」しているからに他ならず、これはかつて教育機関で紛糾した『日の丸・君が代』の強制と構造は全く同じなのです。

国家とは金と権力を行使したがる存在

なぜ、菅内閣は中曽根元首相の合同葬に税金を投入し、大学に弔意表明を求めるといった違憲であり、かつ強権的な事を進めるのでしょうか?
それは、なにも菅内閣に限ったことでもないのですが『そもそも国家とは「金」と「権力」を行使したがる存在』だから。これは国家の宿命のようなものです。
そして、菅政権ではそのような国家の性格が色濃く出ているということです。

この『「金」と「権力」を行使したがる』とは、端的に言って「金」と「権力」によって「国家を拡張したい!」という、いわば「帝国主義的」な発想を指します。つまり、自民党の諸君は未だに ”帝国主義マインド” が抜けきれていないのです。

帝国主義
帝国主義という言葉は非常にさまざまな意味を持っており、最も広義には、「侵略主義」あるいは対外的な勢力拡張政策一般と同じ意味に使われる。しかし狭義には、とくに独占資本主義段階における積極的な対外膨張政策を指す場合が多い。
この段階では、生産の独占集中・金融資本の支配・資本の輸出などの経済的特色がみられ、これらを背景に武力による海外植民地設定・領土拡張政策が進められるとされる。世界史的には19世紀末期から帝国主義時代が始まったと考えられている。
日本がいつごろから帝国主義段階に入ったかについては諸説あるが、日露戦争以後とする説が有力である。
出典:詳説 日本史研究(山川出版)
大日本帝国時代の日本の領土
※戦前・戦中の帝国主義により、日本の領土はアジア一帯に広がった。
Photo by :Wikipedia 「大日本帝国」

上記の解説にもあるように、戦前・戦中の日本はまさに「帝国主義国家」でした。中国大陸に「満州国」といった傀儡国家を建国し、北部仏印・南部仏印といったように、フランス領インドシナにも積極的に進出した歴史があります。試しに Wikipedia で「大日本帝国」で検索すると、当時の日本の領土がどれ程のものであったか一目瞭然の画像が掲載されています(写真上)

これはまさに、「金」と「権力」によって国家を拡張した結果です。もちろん、このことは日本のみならず、というよりも、むしろ欧米諸国の方が国家拡大の欲求は強いと言えます。かつての帝国主義国家、イギリスなどは世界中に植民地を持ったことで ”太陽の沈まない国” と言われました(※ある植民地の太陽が沈んだとしても、別の植民地の太陽は登っていることから由来する)

戦争に負けた日本は領土拡張の欲求をどのように転嫁する?

しかし、現在の日本は戦争に敗北し、その結果、戦勝国のアメリカが現在も日本国内に駐留することで首根っこを抑えられている状態です。

もちろん、かつてのように帝国主義的な領土拡張などできませんし、「自律的な外交」や「自律的な安全保障」についてもアメリカが睨みをきかせていることで思うようにできないでいる状態です。

そんな敗戦国である日本は紛れもないアメリカの ”属国” に堕しているのですが、それでもなお帝国主義的なマインドは消えていないわけです。

──そういった状態に置かれた場合、国家はどのように振る舞うのか?
それまで領土拡張といったように「外側」に向かっていた ”帝国主義マインド” が、今度は「内側」に向かうようになります。つまり、国民に対して「金」と「権力」を行使するようになるということ。この場合、意味のない権威主義や高圧的な強権として表れます。

今回の中曽根元首相の合同葬など、これに当てはまります。
国民の意思などまるで介さず税金を投入し、大勲位と称されるかつての首相を崇め奉ることで意味のない権威を生み出そうとしている。この場合、合同葬をすることで、国民に国家の強さと権威を見せつけ、ひれ伏させることが目的なので、どんなに批判が高まっても中止することなどあり得ないのです。

また、世間を騒がせている「日本学術会議」の任命問題も同根です。菅政権は任命を拒否した6人の学者について、そうなった明確な理由どころか、彼らについての基本的な情報を持ち合わせていない可能性すらあります。政権としては ”左翼の集団” である鼻持ちならない学術会議にプレッシャーを掛けたいわけですから、任命拒否した説明など絶対にしないでしょうし、6人についても任命されることはないです。

問題なのは、「金」と「権力」が内側に向かい、政権による意味のない権威主義や高圧的な強権が蔓延ると、間違いなく国民統制へと向かう点にあります。戦時中の日本がそうでしたし、さすがに現代では同様のことは繰り返さないと考えられますが、令和の時代には新しい形の統制手段が「発明」されるでしょう。この点について日本国民は厳に警戒しなければなりません。

菅政権は極めて危険である!

これからも合同葬のような儀式は間違いなく増えるでしょうし、下手をすれば一つのトレンドになってしまうかもしれません。近い将来、麻生太郎氏や森喜朗氏などが死去した場合、高い税金を費やして合同葬が行われるのです。

また、全国の大学に弔意を求める通知などを出していることから、下手をすれば「安倍晋三氏や菅義偉氏の肖像画を学校に掲げろ!」などと言い出すかもしれません。冗談はさておき、それ程までに現在の菅政権は極めて危険な臭いが漂っているということです。

だからこそ同時に、首相たるもの「権力の魔性を自戒せよ」と自覚しなければならないのです。権力は決して至上ではありません。権力、とくに政治権力は、本来、文化に奉仕するものです。文化発展のため、文化創造のためサーバント(奉仕者)なのです。私が「魔性」と言うのは、政治家を独善的な道に走らせる麻薬的効果が権力にはあるが、それを警戒しなくてはならない、という戒めの言葉です。

中曽根康弘『自省録 -歴史法廷の被告として-』(新潮社)〔P162〕

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